A:蒼毛の鷲獅子 バックスタイン
ギラバニアでは、古くからグリフィンの飼育が行われてきたが、「バックスタイン」の名は、特別な意味を持つ。名門魔獣使いの家名でな……。バックスタイン家が育てたグリフィンは、アラミゴの王侯貴族たちにも、愛される存在だったんだ。
だが、帝国の侵攻により、状況が一変する。帝国軍にグリフィンを奪わせはしないと、バックスタイン家の当主が、家畜房の扉を開け放ったのさ。かくして、獰猛な捕食者が、空に解き放たれたのだよ。
~クラン・セントリオの手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
その長方形の部屋は静まり返っていた。部屋の中央に置かれた豪奢で巨大な会議用テーブルは両サイドにあわせて20人は座れる。テーブルの真上には高さだけで3mほどもありそうなクリスタルがちりばめられた巨大なシャンデリアが吊るされていた。濃い紅で統一された部屋の内壁には半分壁に埋め込まれた形の飾り柱が4~5mピッチの等間隔で並んでいて、その柱の合間合間に両開きの大きな窓が嵌められている。天井近くの壁には繊細な細工が部屋を一周する形でぐるっと施されていた。部屋の入り口は木製だが両開きの重たい扉が付けられていて、その扉を真正面に見据える位置にこの屋敷の主が座っている。部屋には主の他に10名の男がテーブルの席についているが誰も口を開かず、静まり返っている。
この主の男はここバックスタイン家の現当主だ。バックスタイン家はアラミゴに代々続く魔獣使い一族として有名だがそれと同時に、王族や貴族が所有する騎乗用のグリフォンの飼育にかけては他を寄せ付けない品質を誇り、知らぬものがいない程の名門家だ。
バックスタイン家が飼育するグリフォンは優秀な血統を何代も紡ぎ個体としての身体能力や毛並みはもちろん、幼体のころから愛情と厳しさをもって躾け、育あげることで品格に煩い王族や上流階級の貴族すらも唸らせるほどの出来映えで、所有することが一種ステイタスとなっているほど評価されている。
そのバックスタイン家の命運がかかった知らせを凍り付くような張り詰めた空気の中、彼らは待っていた。
廊下をドカドカと急ぎ足で向かってくる音がする。会議テーブルの席についていた男たちは無言で部屋の入り口に注目したが、当主のバックスタインだけはテーブルに肘をつき拳を口元で当てたままじっと目を瞑っていた。
部屋の扉が勢いよく開かれると入ってきた男が言った。
「アラミゴ、陥落。アラミゴはガレマール帝国軍の属州となることが決定的です」
部屋の中で悲鳴に近い沈痛な声が上がる。
渋い顔をしていたバックスタインはその報告を受け一瞬悲しそうな表情を浮かべたが、もう一度きつく目を閉じると椅子から立ち上がり言った。
「無念だ。みんな、檻を開いてグリフォンを放て」
「しかし、当主!」
部屋に詰めていた男たちが驚いた顔でバックスタインの方を見ると思いを諮りかねたように非難の声を上げる一人一人の顔を見ながらバックスタインは続けた。
「我らは誇り高きアラミゴの民である。そして我々の誇りであるバックスタインのグリフォンを一匹たりとも侵略者に渡すな!」
その日から20年の属州時代を経て、エオルゼア連合軍主導のアラミゴ奪還作戦によりガレマール帝国軍を駆逐したアラミゴは再び自分たちの足で歩きだそうとしている…。
そしてあたしは惚れ惚れとして岩山の上を見ていた。
「立派なグリフォンだね」
あまり興味なさげだった相方もいざ実物を見てみると魅了されたらしい。そのこと自体あたしは不思議には思わなかった。なんせ誇り高きアラミゴの王族すら虜にしてやまなかったほどのグリフォンだ。
その中でも紺碧の羽を持つこのグリフォンは特級品なのだ。
「そうでしょ~」
せあたしは自分が誉められたわけでもないのに得意気に鼻を鳴らした。
今や育ての親であるバックスタインの名を戴くそのグリフォンは岩山の頂上で誇らしげに胸を張り、猛禽類特有の黄金の瞳をカッと見開き下界を眺めている。体の大きさも他の個体に比べて1.5倍ほど大きくて全身が筋肉で引き締まっているのが分かる。なによりその青空に溶け込みながらも存在感のある深い紺碧の羽が素晴らしい。
「あの子倒すの?」
少し困惑したような顔で相方が聞く。あたしも困惑したような顔で返す。
「もったいなくてあたしには無理」
頭を振るあたしに相方が苦笑いした。
「…よし、決めた!あたしあの子を手懐ける!」
あたしがいうと相方が興味ありげな顔で聞いてくる。
「どうやって?」
あたしは胸を張って答えた。
「わかんない!でも絶対手懐ける!」
こうしてあたし達のバックスタインメロメロ大作戦の幕が開いた。